一言で言うと

移動平均線の使い方の基本は、未来の予測ではなく「今のトレンドの向き」を確かめることです。 SMA は全データを同じ重みで、EMA は新しい価格ほど重く平均するため、EMA のほうが早く反応します。 ただしどちらも遅れて動く指標で、レンジ相場ではゴールデンクロスなどのだましが増えます。

チャートに移動平均線を出してはいるものの、期間や種類は初期設定のまま、という人は多いのではないでしょうか。 この記事では、SMA と EMA の違いを同じ数値で比べながら、期間の選び方と読み方、弱点を順に整理します。

仕組みと計算式

移動平均線は、過去の一定期間の価格の平均を 1 本ずつずらして計算し、その値を結んだ線です。 値動きの細かいぶれ(ノイズ)をならして、トレンドを見やすくするために使います。 計算には終値を使うのが一般的です。

価格の動きを後から追いかける「遅行型」の指標で、先を予測する道具ではありません。 トレンドの方向に沿って使う「順張り(トレンドフォロー)」系の代表的な指標とされます。 MACD や乖離率なども、移動平均線から派生した指標と位置づけられています。

日本で単に「移動平均線」と言うときは、多くの場合 SMA を指します。

SMA(単純移動平均)

SMA(Simple Moving Average、単純移動平均)は、直近 n 本の終値を足して n で割った値です。

  • SMA =(直近 n 本の終値の合計)÷ n

どの足のデータも同じ重みで扱います。 次の足では、いちばん古い値を外して新しい値を入れます。 そのため平均の位置は、最新の価格より期間の半分ほど遅れます。

EMA(指数平滑移動平均)

EMA(Exponential Moving Average、指数平滑移動平均)は、新しい価格ほど重みを大きくした平均です。 前回の EMA を引き継ぎながら、最新の終値との差を少しずつ取り込んでいきます。

  • 平滑化係数 k = 2 ÷(n + 1)
  • 今回の EMA = 前回の EMA + k ×(今回の終値 − 前回の EMA)
  • 同じ式を整理すると:今回の EMA = k × 今回の終値 +(1 − k)× 前回の EMA

k は、最新の終値をどれだけ取り込むかを表す割合です。 n=5 なら約 33.33%、n=10 なら約 18.18%、n=20 なら約 9.52% になります。 期間を倍にすると、最新の値の重みはおよそ半分になります。

古い値の重みは指数的に小さくなりますが、ゼロにはなりません。 SMA のように、期間が過ぎた値が計算から完全に外れることはない、という点が大きな違いです。

計算例:価格が 100 から 110 に上がったとき

期間 5(k=1/3)で、終値が 5 本続けて 100、その後 110 に上がって続いた場合を計算します。 EMA は、5 本目の SMA(100)を最初の値にしています。

本目 終値 SMA(5) EMA(5)
1〜5 100 100.000(5 本目) 100.000(5 本目=SMA)
6 110 102.000 103.333
7 110 104.000 105.556
8 110 106.000 107.037
9 110 108.000 108.025
10 110 110.000 108.683

6 本目の SMA は(100 × 4 + 110)÷ 5 = 102.000 です。 6 本目の EMA は 100 +(110 − 100)× 1/3 ≒ 103.333 です。 7 本目の EMA は、103.333 +(110 − 103.333)× 1/3 ≒ 105.556 になります。

期間5のSMAとEMAを比べると、価格が100から110に上がった直後はEMAのほうが早く110に近づき、10本目ではSMAが110にそろう一方でEMAは108.683と110に届かないことを示す図

この例から、変化の直後は EMA のほうが新しい価格に早く近づくことが分かります。 SMA は 5 本たつと古い 100 がすべて外れ、ちょうど 110 にそろいます。 EMA は古い値の重みが残るため、110 に近づき続けますが、ちょうど 110 にはなりません。

EMA はツールによって値が少しずれる

EMA の計算には「前回の EMA」が必要なので、最初の 1 本をどう決めるかが問題になります。 最初の SMA から計算を始める方法が一般的ですが、ツールによって初期値の取り方が違います。 最初の終値をそのまま初期値にする方法もあります。

初期値が違うと、計算を始めてしばらくは値が少しずれます。 ただし差は 1 本ごとに(1 − k)倍に縮むため、時間とともに目立たなくなります。 終値 100、102、101、104、103、105、107、106 で期間 5 の EMA を比べると、次のとおりです。

本目 終値 EMA(初期値=5 本目の SMA) EMA(初期値=1 本目の終値) 差
5 103 102.000 102.235 0.235
6 105 103.000 103.156 0.156
7 107 104.333 104.438 0.104
8 106 104.889 104.958 0.069

差は 0.235 → 0.156 → 0.104 → 0.069 と、毎回 2/3 倍に縮んでいます。 StockCharts は、この影響を小さくするため、少なくとも 250 本さかのぼって計算しています。 使っているツールと別のサイトで EMA の値が少し違うときは、この初期値の違いが理由になりえます。

一般的な設定値

よく紹介される期間は、地域によって傾向が違います。 日本の解説では日足 5・25・75(週足 13・26)が、英語圏では 50・200 がよく紹介されます。

文脈 よく紹介される期間の例
日本の証券会社の解説 日足 5・25・75、週足 13・26
英語圏の解説 50・200

短期・中期・長期の区分は資料によって異なります。 たとえば同じ 75 でも、長期線として扱う資料と、中期線として扱う資料があります。 英語圏では、20 未満を短期、20〜60 を中期とする区分などが見られます。

期間を変えたときの性質

期間 性質
短くする 価格に近く動き、反応が早い。そのぶんだましが多い
長くする 線がなめらかになり、だましは減る。そのぶん遅れ(ラグ)が大きい

どの期間が正解という答えはなく、期間によって結果は大きく変わります。 FX では、通貨ペアごとに適した期間が違うという指摘もあります。 一方で、多くの人が見ている期間ほど意識されやすい、という説明もあります。

SMA と EMA はどちらを使うか

EMA は反応が早いぶん、だましが増えやすいとされます。 SMA はだましが出にくい代わりに、直近の値動きへの反応が遅くなります。 どちらが優れていると断定している情報源はなく、性質の違いを理解して選ぶことになります。

チャートでの読み方

傾き:トレンドの向きと勢い

移動平均線が上向きなら価格はおおむね上昇、下向きならおおむね下降していると読めます。 傾きがゆるやかになったら、トレンドの勢いが弱まっていると読まれることが多いです。 長い期間の線ほど、向きが変わるのは遅くなります。

EMA は SMA より先に向きを変えます。 StockCharts の例では、50 日 EMA は 4 月上旬に上向きに転じました。 一方、50 日 SMA は 5 月上旬まで下がり続けています。

価格との位置関係と並び順

価格が移動平均線を上に抜けると強気、下に抜けると弱気のサインとされることが多いです。 価格と移動平均線の距離が大きく開くと、買われすぎ・売られすぎの可能性を示すと考えられています(乖離)。

複数の線を使う場合は、並び順も手がかりになります。 上昇トレンドでは「価格>中期線>長期線」、下降トレンドではその逆の並びになりやすいとされます。 この並びが崩れると、トレンドが弱まっていると読まれます。

サポート・レジスタンスとしての働き

移動平均線は、上昇トレンドでは下値の支え(サポート)として働くことがあります。 下降トレンドでは上値の抵抗(レジスタンス)として働くことがあります。 期間が長いほどこの傾向ははっきりします。 ぴったりの価格ではなく「ゾーン」として見る考え方もあります。

ゴールデンクロス・デッドクロス

短期線が長期線を下から上に抜けることを、ゴールデンクロスと呼びます。 逆に、短期線が長期線を上から下に抜けることをデッドクロスと呼びます。 組み合わせの例としては、25 と 75、5 と 20、50 と 200 などが紹介されています。

クロスは、大きなトレンドが出ている局面で有効とされます。 ゴールデンクロスについては、長期線が上向きであることを条件に加える解説もあります。

短期線が長期線を下から上に抜けるゴールデンクロスは価格の底より後に、上から下に抜けるデッドクロスは天井より後に出ることを示す図

図のように、クロスは価格の底や天井より後に出ます。 遅れて動く 2 本の線から出るサインなので、出るタイミングはどうしても遅くなります。

長期線で向きを確かめ、短期のサインはその方向だけ見る

長期線でトレンドを確かめ、短期のサインはその方向のものだけ見る、という使い方も紹介されています。 StockCharts は、価格が 200 日線より上にある間は 50 日線の上抜けだけを見る例を挙げています。 この場合、50 日線を割り込んだ場面は、大きな上昇トレンドの中の押し目とみなします。

グランビルの法則

グランビルの法則は、価格と移動平均線の位置関係や傾きから、相場の局面を読む考え方です。 買いと売りのそれぞれ 4 つ、計 8 つのパターンに整理されています。 日本の解説では、移動平均線の使い方としてよく取り上げられます。

ただし、法則のとおりに相場が動くとは限らないという注意もあります。 ほかの読み方と同じく、単独の判断材料にはしないことが前提です。

だまし・弱点と、相性のよい組み合わせ

遅行性は構造上さけられない

移動平均線は過去の価格の平均なので、遅れは構造上さけられません。 期間が長いほど遅れは大きく、EMA は SMA より遅れが小さいとされます。 値動きの大きい通貨ペアでは、クロスが出た時点でトレンドがすでに変わっていることもあります。

長期線は、なかなか向きを変えません。 StockCharts の例では、150 日 EMA の向きが変わるまでに約 15% の下落が必要でした。

レンジ相場でのだまし

強いトレンドがない相場では、クロスがだましになりやすくなります。 「だまし」とは、シグナルが出たのに、その方向に値動きが続かないことです。 レンジ相場(一定の価格帯を上下する相場)では線が横ばいになり、クロスが何度も出てしまいます。

レンジ相場では横ばいの短期線と長期線が何度も交差しても価格は帯の中に戻り、帯を上に抜けた後のゴールデンクロスだけ価格が上に続くことを示す図

図は架空の例で、だましの回数は本文の事例とは一致しません。

StockCharts の例では、10 日 EMA と 50 日 EMA のクロスでだましが 3 回続きました。 4 回目のサインで、ようやく大きなトレンドが出ています。 だましを減らす工夫としては、次のような方法が紹介されています。

  • クロスが一定日数(例:3 日)続くのを待つ
  • 2 本の線の間に一定以上の差がつくのを待つ

ただし、待つほどサインはさらに遅くなります。 期間を短くすれば反応は早くなりますが、だましは増えます。 反応の早さとだましの少なさは、どちらかを取ればもう一方が弱くなる関係です。

主な弱点のまとめ

  • 遅行性:過去の平均なので、転換を後から確認する形になる
  • レンジ相場でのだまし:線が横ばいになり、クロスが何度も出る
  • 期間に正解がない:期間によって結果が変わり、どの銘柄・通貨ペアにも同じ期間が合うとは限らない
  • EMA は計算の起点で値がずれる:ツールによって値が少し違う理由になりうる

相性のよい組み合わせ

多くの解説で共通しているのは、役割分担の考え方です。 移動平均線でトレンドの向きを確かめ、ほかの指標でタイミングや過熱感を確かめます。

RSI(過熱感を確かめる) RSI は、相場の買われすぎ・売られすぎを 0〜100 で表すオシレーターです。 StockCharts は、移動平均線でトレンドを決め、RSI で買われすぎ・売られすぎを見る組み合わせを紹介しています。 移動平均線のサインが出ていても、RSI などで過熱していれば様子見にする、という判断例を挙げる解説もあります。

RSI の使い方とだましについては、RSIとは?計算式・設定値・使い方とだましの見分け方で詳しく解説しています。

MACD MACD は EMA から作られる指標です。 EMA 同士のクロスとつながりがありますが、SMA のクロスとは一致しません。

ボリンジャーバンド 中心線に 20 期間の SMA を使います。 バンドの幅を、レンジかトレンドかを判断する補助に使う方法が紹介されています。

ADX ADX は、値が低ければトレンドが弱く、レンジの可能性が高いとされる指標です。 だましの多い局面を見分ける補助として紹介されています。

資金管理もセットで考える

移動平均線のサインは、外れることを前提に使う必要があります。 ローソク足や資金管理と組み合わせる方法を挙げる解説もあります。 損切り幅を決めたら、その幅での取引数量も確認しておくと、損失を想定の範囲に収めやすくなります。

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