一言で言うと
MACD の使い方の基本は、「2 本の EMA の開き」をトレンドの向きと勢いとして読むことです。 ゼロラインで向きを、シグナル線とのクロスとヒストグラムで勢いの変化を見ます。 ただし遅れて動く指標で、レンジ相場ではだましが増えます。
MACD を表示していても、2 本の線とヒストグラムが何を表すか、説明できるでしょうか。 この記事では、計算式と設定値、計算例、チャートでの読み方を順に整理します。 弱点と、ほかの指標との組み合わせ方も紹介します。
仕組みと計算式
MACD(Moving Average Convergence Divergence)は、Gerald Appel(ジェラルド・アペル)が考案した指標です。 1970 年代後半に考案されたとされます。 日本語では「移動平均線収束拡散法」と呼ばれます。
MACD は、移動平均線から派生した指標です。 2 本の EMA(指数平滑移動平均)の差から、トレンドの向きと勢い(モメンタム)を見ます。 分類はトレンドフォロー型(順張り)です。
3 つの構成要素と計算式
MACD は、次の 3 つでできています。 価格には終値を使います。
- MACD 線 = 12 期間 EMA − 26 期間 EMA
- シグナル線 = MACD 線の 9 期間 EMA
- ヒストグラム = MACD 線 − シグナル線
MACD 線がプラスなら、12 期間 EMA が 26 期間 EMA より上にあります。 マイナスなら下にあります。 EMA そのものの計算は、移動平均線の使い方で解説しています。
シグナル線は EMA か SMA か
シグナル線は、MACD 線の EMA で計算するのが一般的です。 ただし、SMA(単純移動平均)を使うツールもあります。 設定で EMA と SMA を選べるツールもあり、計算が違うとクロスの位置が少しずれることがあります。
ヒストグラムは後から加えられた
ヒストグラムは、Thomas Aspray(トーマス・アスプレイ)が 1986 年に作ったとされます。 シグナル線とのクロスを先読みするため、と説明されています。 週足で MACD のシグナルが遅れることを補うのが目的だった、とされます。
ツールによっては、標準の MACD の表示が異なります。 MT4 の標準の MACD は、MACD 線そのものを棒グラフで、シグナル線を線で表示するとされます。 この棒は、この記事で説明しているヒストグラム(MACD − シグナル)とは別物です。
ツールで序盤の値が違う理由
MACD の各 EMA は、最初の 1 本の取り方で序盤の値が変わります。 シグナル線は MACD の値がそろってから計算が始まるので、序盤のずれはさらに長く残ります。 ツールによって値が少し違うのは、こうした計算の違いが原因になりえます。
計算例:価格が止まっても MACD は動く
MACD が何を表しているかを、架空のデータで確かめます。 終値がずっと 100 で、ある足から 110 に上がり、その後も 110 が続くとします。 12・26・9 の EMA はすべて 100 に落ち着いた状態から始めます。
上がった最初の足(k=1)は、次のように計算できます。
- 12 期間 EMA = 100 +(2 ÷ 13)× 10 ≒ 101.538
- 26 期間 EMA = 100 +(2 ÷ 27)× 10 ≒ 100.741
- MACD = 101.538 − 100.741 ≒ 0.798
- シグナル = 0.2 × 0.798 ≒ 0.160(9 期間 EMA の係数は 2 ÷ 10 = 0.2)
同じ計算を続けると、次の表になります。
| 上がってから k 本目 | 終値 | MACD | シグナル(9 期間 EMA) | ヒストグラム |
|---|---|---|---|---|
| 0 | 100 | 0.000 | 0.000 | 0.000 |
| 1 | 110 | 0.798 | 0.160 | 0.638 |
| 2 | 110 | 1.414 | 0.410 | 1.003 |
| 3 | 110 | 1.880 | 0.704 | 1.176 |
| 4 | 110 | 2.224 | 1.008 | 1.216(山) |
| 5 | 110 | 2.468 | 1.300 | 1.168 |
| 6 | 110 | 2.631 | 1.566 | 1.065 |
| 7 | 110 | 2.729 | 1.799 | 0.930 |
| 8 | 110 | 2.775 | 1.994 | 0.781 |
| 9 | 110 | 2.779(山) | 2.151 | 0.628 |
| 10 | 110 | 2.750 | 2.271 | 0.479 |
この表から、3 つのことが読み取れます。
- MACD は価格の水準ではなく勢いを表す:価格は 110 で止まっているのに、MACD は 9 本目まで上がり、その後は下がって 0 に近づいていきます
- ヒストグラムが先に山をつける:ヒストグラムは 4 本目で山をつけ、MACD 線(9 本目)より先に縮み始めます。「クロスを先読みする」と説明される理由が分かります
- 値動きの大きさに比例する:値上がりを 10 ではなく 100 にすると、MACD もそのまま 10 倍になります
一般的な設定値
12・26・9 が一般的な設定値です。 短期 EMA が 12、長期 EMA が 26、シグナル線が 9 という意味です。 ただし、ツールによって初期設定が異なることがあります。
12・26・9 は、証券会社などのツールで初期設定に多く採用されています。 なお、考案者が買いと売りで別の組み合わせを使っていた、とする資料もあります。
ほかに紹介されている設定の例
12・26・9 以外にも、次のような組み合わせが紹介されています。 いずれも解説で挙げられている例で、最適値や推奨値ではありません。
| 設定の例 | 紹介されている使い方 |
|---|---|
| 5・35・5 | より敏感な設定。週足に向くかもしれない、とする解説がある |
| 9・17・7 | 売買が活発で、トレンドが続きにくい局面向けの応用例 |
| 6・19/19・39 | 短期の売買向け/長期の保有向けの例 |
| 10・20・10 | ヒストグラムを作った Aspray が使っていた設定 |
期間を短くすると敏感になり、長くすると鈍くなります。 シグナル線の期間を 1 にすると、シグナル線とヒストグラムが消え、MACD 線だけになります。
チャートでの読み方
ゼロライン:トレンドの向きを見る
ゼロラインは、MACD が 0 になる水平線です。 MACD がゼロより上なら上昇の勢い、下なら下降の勢いがあると解釈されることが多くあります。 ゼロより上(下)の状態は、トレンドの強さによって数日から数か月続くことがあります。
MACD がゼロを横切る瞬間は、12 期間 EMA と 26 期間 EMA のクロスと同じです。 つまり、EMA どうしのゴールデンクロス・デッドクロスを表しています。 SMA どうしのクロスとは一致しない点に注意が必要です。
MACD 線とシグナル線のクロス
最もよく使われるのが、MACD 線とシグナル線のクロスです。
- ゴールデンクロス:MACD 線がシグナル線を下から上に抜ける。強気のサインとされる
- デッドクロス:MACD 線がシグナル線を上から下に抜ける。弱気のサインとされる
クロスの後に 2 本の線がゼロより上にある形を、強気のサインとして重視する解説があります。 弱気はその逆で、2 本の線がゼロより下にある形です。 2 本の線の傾きが急なほど勢いが強い、とする説明もあります。
ゼロラインから遠い位置で出たクロスの見方は、解説によって分かれます。 ゼロから離れた位置のクロスほど信頼度が高い、とする解説があります。 一方で StockCharts は、極端な位置のクロスは勢いが鈍っていることが多いので注意、としています。
ヒストグラム:勢いの変化を見る
ヒストグラムは、MACD 線とシグナル線の差を棒グラフにしたものです。 プラスなら MACD 線がシグナル線より上、マイナスなら下にあります。
- 棒が伸びる:2 本の線が離れていく。勢いが強まっていると解釈される
- 棒が縮む:2 本の線が近づいていく。クロスの手前の段階
- ゼロを横切る:MACD 線とシグナル線のクロスと同じタイミング
計算例で見たとおり、ヒストグラムは MACD 線より先に縮み始めます。 ただしヒストグラムは、平滑化を重ねた「指標の指標」です。 StockCharts は、最終的な確認はシグナル線のクロスで行う、としています。
ダイバージェンス(逆行)
ダイバージェンスとは、価格と MACD が逆の動きをすることです。 形の定義は、RSI のダイバージェンスと同じです。
- 弱気のダイバージェンス:価格は高値を更新したのに、MACD の高値は前回より低い
- 強気のダイバージェンス:価格は安値を更新したのに、MACD の安値は前回より高い
通常のダイバージェンスは、トレンドの弱まりや転換の可能性を示すとされます。 一方、トレンドの継続を示す「ヒドゥン・ダイバージェンス」を区別する解説もあります。 ダイバージェンスの見方は、RSIの記事で詳しく解説しています。
注意したいのは、強いトレンドの中では逆向きのダイバージェンスがよく出ることです。 StockCharts は、強い上昇トレンドでは弱気、強い下降トレンドでは強気のダイバージェンスがよく出るとしています。 ダイバージェンスが出ても、必ず反転するとは限りません。
ダイバージェンスの後は、価格のほうでサポート割れやレジスタンス抜けを確かめる例が紹介されています。 クロスのシグナルを確認する形で出たときに強い、とする解説もあります。
だまし・弱点と、相性のよい組み合わせ
主な弱点
- 遅れて動く:移動平均をもとにしているため、シグナルは価格の動きより遅れる。シグナル線は MACD 線のあとを追い、ヒストグラムにはさらに遅れが加わる
- レンジ相場でだましが増える:MACD 線がシグナル線を何度も行き来し、クロスが頻発する
- 短期間の激しい値動きをとらえにくい
- 上限・下限がない:RSI のような買われすぎ・売られすぎの判断には向かないとされる(下で説明)
- 価格の水準に比例する:違う通貨ペアどうしで MACD の数字を比べられない
- ダイバージェンスのだまし:強いトレンドの中では逆向きのダイバージェンスがよく出る
- 設定やツールで結果が変わる:期間、シグナル線の EMA/SMA、EMA の始め方で値が変わる
値動きが荒いとクロスは増えます。 StockCharts の例では、ある銘柄が 5 か月でゼロラインのクロスを 7 回出し、その多くがだましでした。 これは米国株の例で、FX で確かめたデータではありません。
上限・下限がない(RSI との違い)
RSI は 0〜100 の範囲に収まり、70/30 などの水準を目安にできます。 一方、MACD には上限・下限がなく、決まった水準もありません。 そのため、RSI のような買われすぎ・売られすぎの判断には向かないとされます。
急な値動きでは、MACD が大きく伸びることがあります。 2 本の EMA が大きく離れたら行き過ぎの可能性、と見る使い方を紹介する資料もあります。
価格の水準に比例する
計算例で見たとおり、値動きが 10 倍なら MACD も 10 倍になります。 そのため、同じ割合の値動きでも、ドル円(100 円台)とユーロドル(1 ドル台)では、MACD の数字の大きさがまったく違います。 違う銘柄を比べるなら、差を長期 EMA で割って % にした PPO を使う、とする解説があります。
だましを減らす確認の順番
だましを完全に避けることはできません。 ただ、次の順で確かめると、クロスだけで判断することを減らせます。
- トレンドが出ているかを確かめる:移動平均線などで、相場の向きを見る。レンジ相場では MACD を使わない、とする解説もある
- ゼロラインとの位置関係を見る:クロスがゼロより上か下かを確かめる
- ヒストグラムの伸び縮みを見る:勢いが強まっているのか、弱まっているのかを確かめる
- ダイバージェンスは価格の動きで確かめる:サポート割れ・レジスタンス抜けなどを見る。強いトレンドの中では逆向きのダイバージェンスがよく出る点に注意する
相性のよい組み合わせ
多くの解説で共通しているのは「MACD だけで判断せず、ほかの道具で確かめる」ことです。
移動平均線(長期のトレンドを確かめる) 長期のトレンドを把握してから MACD を使う、とする解説があります。 StockCharts には、200 日 SMA を長期トレンドの目安にして、MACD の条件と組み合わせるスキャン例があります。 移動平均線の読み方は、移動平均線の使い方で解説しています。
RSI(買われすぎ・売られすぎを見る) MACD は上限・下限がないため、買われすぎ・売られすぎの判断を RSI に任せる、という役割分担ができます。 MACD のクロスで RSI のシグナルを確かめる使い方も紹介されています。 RSI の読み方は、RSIとは?計算式・設定値・使い方とだましの見分け方で解説しています。
ボリンジャーバンド(レンジかトレンドかを見分ける) バンドの幅で、レンジ相場かトレンド相場かを見分ける組み合わせが紹介されています。 レンジでだましが増えるという MACD の弱点を補う役割です。 詳しくは、ボリンジャーバンドの使い方で解説しています。
上の時間軸(上位足) 週足を見てから日足を見て、中期のトレンドに逆らわないようにする考え方があります。 複数の時間軸の組み合わせ方は、マルチタイムフレーム分析の記事で解説しています。 トレンドに沿って売買する考え方は、トレンドフォローの記事で紹介しています。
ほかに、ストキャスティクスとの組み合わせを紹介する解説もあります。
損切りもセットで考える
MACD のシグナルは、外れることを前提に考える必要があります。 損切り幅を決めたら、その幅での取引数量も確認しておくと、損失を想定の範囲に収めやすくなります。 取引数量は、ロット計算ツールで計算できます。
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