一言で言うと
ストキャスティクスの使い方では、80/20 に「入ったとき」より「出たところ」を見る考え方があります。 終値が過去の値幅のどこにあるかを表す指標なので、強いトレンドでは 80 以上や 20 以下に張り付きます。 %K・%D の計算と、ファスト/スローの違いを知っておくと、ツールごとの数値のずれにも迷いにくくなります。
RSI と同じオシレーターなのに、動き方がまるで違うと感じたことはないでしょうか。 この記事では、計算式と計算例、設定値の例、読み方と弱点、RSI との違いを順に整理します。
仕組みと計算式
ストキャスティクス(Stochastic Oscillator)は、George Lane が考案した(広めた)とされる指標です。 分類はモメンタム系オシレーターです。 相場の勢い(モメンタム)を、0〜100 の範囲で上下する線で表します。
この指標が表すのは、直近の終値が「過去 n 期間の最高値と最安値の幅」のどこにあるかです。 50 より上なら終値は値幅の上半分、50 より下なら下半分にあります。 Lane は、勢いは価格より先に向きを変えると説明していました。
背景には、上昇局面では終値が値幅の上のほうに集まりやすい、という考え方があります。 下落局面では、その逆に下のほうに集まりやすいと考えます。
%K の式
%K はストキャスティクスの基本になる線です。
- %K =(当日の終値 − n 期間の最安値)÷(n 期間の最高値 − n 期間の最安値)× 100
終値が n 期間の最高値ちょうどなら 100、最安値ちょうどなら 0 になります。 たとえば 14 期間の高値が 110、安値が 100、終値が 108 なら %K は 80 です。 終値が 103 なら 30 になります。
%D の式(2 つの計算方式)
%D は、%K をなめらかにした線です。 本記事では、%K の 3 本の単純移動平均(SMA)を基本の式とします。 StockCharts や TradingView が使っている方式です。
- %D =(今回の %K + 1 本前の %K + 2 本前の %K)÷ 3
日本の解説やツールでは、合計どうしの比で計算する方式も多く見られます。
- %D = 3 本分の(終値 − 最安値)の合計 ÷ 3 本分の(最高値 − 最安値)の合計 × 100
2 つの方式は、各足の値幅(最高値 − 最安値)がすべて同じなら一致します。 値幅が違うと、値が少しずれることがあります。 ツールによって数値が少し違うのは、この方式の違いが原因になりえます。
スロー%D の式
スロー%D は、%D をさらに平均した線です。
- スロー%D = %D の 3 本の単純移動平均
計算例(架空のデータ、n = 5、平均 3 本)
実在の相場ではない、架空の 9 本の足で計算します。
| 足 | 高値 | 安値 | 終値 |
|---|---|---|---|
| 1 | 102 | 98 | 100 |
| 2 | 104 | 99 | 103 |
| 3 | 105 | 101 | 102 |
| 4 | 103 | 97 | 98 |
| 5 | 101 | 96 | 100 |
| 6 | 106 | 100 | 105 |
| 7 | 108 | 103 | 107 |
| 8 | 107 | 102 | 103 |
| 9 | 104 | 99 | 101 |
手順 1:%K(n = 5)
%K は 5 本そろった足 5 から計算できます。
| 足 | 5 期間の最高値 | 5 期間の最安値 | 終値 − 最安値 | 最高値 − 最安値 | %K |
|---|---|---|---|---|---|
| 5(足 1〜5) | 105 | 96 | 4 | 9 | 44.444 |
| 6(足 2〜6) | 106 | 96 | 9 | 10 | 90.000 |
| 7(足 3〜7) | 108 | 96 | 11 | 12 | 91.667 |
| 8(足 4〜8) | 108 | 96 | 7 | 12 | 58.333 |
| 9(足 5〜9) | 108 | 96 | 5 | 12 | 41.667 |
手順 2:%D を 2 つの方式で計算(平均 3 本)
| 足 | SMA 方式(%K の 3 本平均) | 合計比の方式 |
|---|---|---|
| 7 | (44.444 + 90.000 + 91.667) ÷ 3 = 75.370 | (4 + 9 + 11) ÷ (9 + 10 + 12) = 24 ÷ 31 → 77.419 |
| 8 | (90.000 + 91.667 + 58.333) ÷ 3 = 80.000 | (9 + 11 + 7) ÷ (10 + 12 + 12) = 27 ÷ 34 → 79.412 |
| 9 | (91.667 + 58.333 + 41.667) ÷ 3 = 63.889 | (11 + 7 + 5) ÷ (12 + 12 + 12) = 23 ÷ 36 → 63.889 |
合計比の方式は、比に 100 を掛けた値です。
手順 3:スロー%D(足 9)
- SMA 方式:(75.370 + 80.000 + 63.889) ÷ 3 = 73.086
- 合計比の方式:(77.419 + 79.412 + 63.889) ÷ 3 = 73.573
足 9 の %D は、3 本とも値幅が 12 で同じなので、2 つの方式が一致します。 値幅が違う足 7・8 では、値がずれています。 端数は小数第 3 位で四捨五入し、途中の計算は分数のまま行いました。
ファスト・スロー・フルの違い
ストキャスティクスには、どの 2 本の線を表示するかで種類があります。
| 種類 | 表示する 2 本の線 | 性質 |
|---|---|---|
| ファスト | %K と %D | 反応が速いが、敏感すぎてだましが多い |
| スロー | %D とスロー%D | なめらかでだましが少なめだが、反応は遅れる |
| フル | 期間・%K の平滑化・%D の期間の 3 つを自由に決める | 設定しだいでファストにもスローにもなる |
「だまし」とは、シグナルが出たのに、その方向に値動きが続かないことです。 一般に「ストキャスティクス」といえば、スローを指すことが多いとされます。
MT4/MT5 では、Slowing(%K の平滑化)を 1 にするとファスト、3 にするとスローになります。 TradingView でも、Smooth を 1 にすると %K の追加の平滑化がなくなります。
ツールによって線の呼び名がずれる
英語圏の解説でいう「スロー%K」は、日本の解説の「%D」と同じものです。 「スロー%D」は、英語圏と日本で同じものを指します。
MT4/MT5 の画面上の名前は %K と %D です。 ただし Slowing を 3 にしたメインラインは、合計比の方式で計算した %D にあたります。 シグナルラインは、そのメインラインの単純移動平均で、スロー%D にあたります。
名前が似た別の指標:StochRSI
「ストキャスティクス RSI(StochRSI)」は、名前が似ていますが別の指標です。 この記事では扱いません。
一般的な設定値
設定値は、ツールや解説によって初期設定が異なります。 代表的な例は「14・3・3」と「5・3・3」です。 並びは「%K の期間・%K の平滑化・%D の期間」です。
| 例 | 使われている場所 |
|---|---|
| 14・3・3 | StockCharts の例、TradingView の初期値 |
| 5・3・3 | MT4/MT5 の初期値 |
| %K の期間 5 または 9、%D 3 | 日本の証券会社の解説でよく出てくる例 |
平均の期間 3 は、ほぼどの出典でも共通しています。 これらは各ツールや解説が示している例で、推奨値ではありません。
期間を変えたときの性質
| 期間 | 性質 |
|---|---|
| 短くする | 線がギザギザになり、買われすぎ・売られすぎの判定が増える |
| 長くする | 線がなめらかになり、判定の回数は減る。しばらく 80 に届かず、判定を取り逃がすこともある |
水準ライン(80/20 と 70/30)
水準は 80/20 がよく使われますが、70/30 を使う解説もあります。 80/20 は固定の基準ではなく、銘柄によって合わないことがある、とする出典もあります。 過去のデータで確かめて調整するよう書いている解説があります。
チャートでの読み方
80/20 は「ゾーンを出たところ」を見る考え方がある
80 以上は終値が値幅の上端に近く「買われすぎ」、20 以下は下端に近く「売られすぎ」の目安とされます。 ただし、ゾーンに入っただけで判断せず、ゾーンから出たところを見る考え方があります。 StockCharts は、買われすぎがそのまま弱気を意味するわけではないとしています。
転換と解釈するには、80 を上から下に抜ける動きを待つという説明です。 20 についても同じで、20 を下から上に抜ける動きを見ます。 MT5 のヘルプも、20 を下回ってから上に戻る動き、80 を上回ってから下に戻る動きを判断材料にしています。
この見方が機能しやすいのは、レンジ相場(一定の価格帯を上下する相場)とされます。
下の図は、ファスト・ストキャスティクスの 2 本の線(%K と %D)で描いています。 スロー(%D とスロー%D)でも、同じ考え方で見ることができます。
強いトレンドでは 80 以上・20 以下に張り付く
強い上昇トレンドでは、ストキャスティクスが 80 以上にとどまり続けることがあります。 これは反転の合図ではなく、むしろ上昇の強さを示している場合があります。 下降トレンドの 20 以下も同じです。
張り付いた状態では、2 本の線が何度も交差し、その多くがだましになるという指摘もあります。 トレンド中に 80/20 の数値だけを見て逆張りすると、トレンドに逆らうことになります。
StockCharts は、トレンドの向きに合わせて見方を変える考え方を紹介しています。 上昇トレンドでは、ときどき出る売られすぎに注目し、頻繁に出る買われすぎは気にしないという見方です。 下降トレンドでは、その逆になります。
下の図も、ファスト・ストキャスティクスの %K と %D で描いています。 スローの 2 本でも、80 以上・20 以下に長くとどまりやすいという見方は同じです。
50 ライン
50 を上に抜けると、終値が値幅の上半分に移ったことの確認になります。 50 を下に抜けた場合は、下半分に移ったことの確認です。
%K と %D のクロス
%D はシグナルライン(判断の基準にする線)として使われます。 %K と %D の交差は早いタイミングを示しますが、回数が多く、行ったり来たりしやすい点に注意が必要です。
日本の解説では、スローの場合に %D とスロー%D の交差を見る説明が多くあります。 %D がスロー%D を下から上に抜ける交差をゴールデンクロス、上から下に抜ける交差をデッドクロスと呼びます。 20 以下や 80 以上で起きたクロスを、より重く見る解説が多くあります。
単純なクロスは回数が多いため、%D が天井や底をつけて大きく戻したあとのクロスを待つ、という考え方も紹介されています。
ダイバージェンス(逆行)
ダイバージェンスとは、価格とストキャスティクスが逆の動きをすることです。 考え方は RSI の記事のダイバージェンスと同じです。
- 弱気のダイバージェンス:価格は高値を更新したのに、ストキャスティクスの高値は前回より低い
- 強気のダイバージェンス:価格は安値を更新したのに、ストキャスティクスの安値は前回より高い
勢いが弱まっていることを示し、転換の可能性を考える材料とされます。 StockCharts は、Lane がダイバージェンスを最も重要なシグナルと考えていたと紹介しています。
ダイバージェンスが出ても、すぐに転換と決めずに確認を待つ考え方があります。 StockCharts は、弱気のダイバージェンスならサポート割れや 50 割れで確認するとしています。 強気のダイバージェンスなら、抵抗線の突破や 50 超えで確認するという説明です。
極端な水準でのダイバージェンスを予告のようなものとし、%K と %D の交差を実際の合図とする解説もあります。 RSI の記事で触れた、買われすぎ・売られすぎの水準を経た後に出るダイバージェンスのほうが信頼度は高いとされる、という見方と同じ方向の考え方です。
ただし、ダイバージェンスも外れることがあります。 強い下降トレンドでは、強気のダイバージェンスが出ても安値に張り付いたまま、だましになることがあります。
だまし・弱点と、相性のよい組み合わせ
主な弱点
- トレンドで張り付く:80 以上・20 以下が長く続き、逆張りの目安として機能しにくい
- シグナルが多く、だましが多い:クロス、80 割れ、20 超えはどれも頻繁に起き、行ったり来たりしやすい。特にファストは反応が速いぶんだましが多い
- RSI より上下に振れやすい:0 や 100 に達しやすく、極端な水準に行きやすい
- 期間の取り方で性格が変わる:短いと判定が増え、長いと判定を取り逃がすことがある
- ダイバージェンスも必ず当たるわけではない:強いトレンドではだましになることがある
- 計算方式と呼び名がツールで違う:%D の 2 つの計算方式や、線の名前のずれで、数値や表示が違って見える
StockCharts は、ストキャスティクスはトレーディングレンジ(レンジ相場)に最も向いているとしています。 一方で、ジグザグに進むトレンドの押し目や戻りにも使えるとしています。 レンジ相場での考え方は、レンジ逆張りの記事も参考にしてください。
RSI との違い
ストキャスティクスと RSI は、どちらも 0〜100 のオシレーターです。 大きな違いは、何を比べているかにあります。
| 観点 | ストキャスティクス | RSI |
|---|---|---|
| 何を比べるか | 終値が n 期間の最高値〜最安値の幅のどこにあるか(位置) | n 期間の値上がり幅と値下がり幅の比率 |
| 使う価格 | 高値・安値・終値 | 終値 |
| 線の本数 | 2 本(%K と %D、スローなら %D とスロー%D) | 1 本 |
| 0・100 への届きやすさ | 終値が n 期間の高値(安値)ちょうどなら 100(0)になり、届きやすい | 0・100 になりにくい |
| よく使われる水準 | 80/20 | 70/30 |
| 動き方 | 上下に激しく、極端な水準に行きやすい | 30〜70 の間に収まりやすい |
| 判断のしかた | 2 本の線のクロスでタイミングを見やすい | 主に水準(位置)で見る |
ストキャスティクスは、前の足の終値との差を使いません。 そのため、値幅の上のほうで終値が並べば、前の足より下がっていても高い値のままになることがあります。 RSI は、終値の上げ下げの量を見ます。
相性のよい組み合わせ
多くの解説で共通しているのは、ストキャスティクスだけで判断しないことです。 トレンドの向きや、価格の節目と合わせて確かめる使い方が紹介されています。
トレンドを確かめる道具(移動平均線・トレンドライン) 大きなトレンドの方向に合わせて使う、という考え方があります。 StockCharts には、価格が 200 日 SMA より上で、スロー%K(14,3) が 20 を下から上に抜けた銘柄を探すスキャン例があります。 逆に、200 日 SMA より下で 80 を上から下に抜けた銘柄を探す例もあります。
サポート・レジスタンス サポート付近での 20 の上抜けや、レジスタンス付近での 80 の下抜けを、転換の確認材料にする例があります。
MACD ストキャスティクスと MACD のクロスがそろうのを待つ例があります。 だましは減るものの、ゼロにはならないとも説明されています。
ボリンジャーバンド 価格が ボリンジャーバンドの ±2σ に触れた場面と、ストキャスティクスのクロスを合わせて見る例があります。
スローを使う ファストではなくスローを使うこと自体が、だまし対策として挙げられています。
どの組み合わせでも、シグナルは外れることがある前提で使われます。
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