一言で言うと

フィボナッチの使い方の基本は、値動きの幅を決まった比率で区切り、押し・戻りの「目安の水準」を見ることです。 23.6・38.2・61.8% はフィボナッチ数列から出てくる比率ですが、50% は数列の比から出てくる値ではありません。 どの高値・安値を選ぶかで水準はすべて変わり、その比率で反転しやすいという根拠には弱いとする見方もあります。

フィボナッチ・リトレースメントの線を引いてはいるものの、どこからどこへ引くのか迷う人は多いと思います。 この記事では、比率の由来を数字で確かめたうえで、引き方、読み方、弱点の順に整理します。

仕組みと計算式

フィボナッチ・リトレースメントは、ある上昇や下落の値幅に比率を掛けて、水平線を引く作図ツールです。 上昇の途中の一時的な下げを「押し」、下落の途中の一時的な上げを「戻り」と呼びます。 押しや戻りがどのあたりで止まりうるか、その候補を見るために使われます。

指定するのは、値動きの両端にあたる安値と高値の 2 点です。 この 2 点が 0% と 100% になり、その間を比率で区切って線を引きます。 移動平均線と違い、一度引いた水準は動かないという特徴があります。

StockCharts は、これらの水準を「反転しうる場所の候補」と位置づけています。 反転する場所そのものではなく、ほかの手段で確かめる必要があるとしています。

フィボナッチ数列とは

フィボナッチ数列は、各項が直前の 2 項の和になる数列です。

  • 0, 1, 1, 2, 3, 5, 8, 13, 21, 34, 55, 89, 144, 233, 377, …

たとえば 21 = 8 + 13、34 = 13 + 21 です。 リトレースメントで使う比率は、この数列の項どうしの割り算から出てきます。

23.6・38.2・61.8% が出てくる理由

数列の項を、すぐ隣の大きい項で割ると、値はおよそ 0.618 に近づいていきます。

割り算 値
5 ÷ 8 0.625000
8 ÷ 13 0.615385
13 ÷ 21 0.619048
21 ÷ 34 0.617647
34 ÷ 55 0.618182
55 ÷ 89 0.617978
89 ÷ 144 0.618056
144 ÷ 233 0.618026
行き着く値 0.618034

値は 0.618 の上と下を交互に行き来しながら近づきます。 同じように、2 つ先の項で割ると 0.382 に、3 つ先の項で割ると 0.236 に近づきます。

割り算 値 割り算 値
34 ÷ 89 0.382022 34 ÷ 144 0.236111
55 ÷ 144 0.381944 55 ÷ 233 0.236052
89 ÷ 233 0.381974 89 ÷ 377 0.236074
行き着く値 0.381966 行き着く値 0.236068

これらの行き着く値は、黄金比 φ(ファイ、約 1.618)と結びついています。 隣り合う項の比(大きい項 ÷ 小さい項)は φ に近づくことが数学的に知られています。 そのため 0.618 は φ の逆数(1 ÷ 1.618)にあたります。

比率どうしには、次の関係もあります。

関係 計算 結果
0.618 の 2 乗 ≒ 0.382 0.618034 × 0.618034 0.381966
0.618 の 3 乗 ≒ 0.236 0.618034 × 0.618034 × 0.618034 0.236068
0.618 + 0.382 = 1 0.618034 + 0.381966 1.000000
0.618 − 0.382 ≒ 0.236 0.618034 − 0.381966 0.236068

0.618 と 0.382 を足すとちょうど 1 になります。 これは φ の 2 乗が φ + 1 に等しいという性質から導けます。 この関係が、後で出てくる計算例の「数字の入れ替わり」にもつながります。

50% はフィボナッチ比率ではない

多くのツールや解説は 50% の線も引きますが、これは数列から導いた比率ではありません。 StockCharts は、50% はダウ理論の「前の動きの半分を戻すことが多い」という観察に由来するとしています。 広く注目されている心理的な中間点なので含まれている、と説明する解説もあります。

数列の最初のほうには 1 ÷ 2 という比も出てきます。 ただし比は 0.618 などに向かって近づいていくので、0.5 は比の行き着く値ではありません。 50% を「フィボナッチの比率」と呼ぶのは正確ではない、と覚えておくとよいでしょう。

深い押しの 78.6% と 76.4%

61.8% より深い水準として、78.6% を使う解説と 76.4% を使う解説があります。

水準 出し方 計算
78.6% 0.618 の平方根 √0.618034 ≒ 0.786151
76.4% 1 − 0.236 1 − 0.236068 = 0.763932

どちらも比率をもう 1 段階計算した値で、数列の項の割り算から直接は出てきません。 どちらが正しいという決まりはないので、使っている解説やツールがどちらを採っているか確かめてください。

水準の価格を出す式

ツールに価格が表示されないときは、自分で計算することもできます。 H を高値、L を安値、r を比率(0.236、0.382 など)とします。

  • 上昇のあとの押しの水準 = H − r ×(H − L)
  • 下落のあとの戻りの水準 = L + r ×(H − L)

上昇の押しは高値から下へ、下落の戻りは安値から上へ測ります。 どちらも「高値と安値の差(値幅)× 比率」を出すところは同じです。

計算例 1:安値 140.00、高値 150.00(値幅 10.00)

架空の価格での計算です。

比率 値幅 × 比率 上昇のあとの押し(H − 値) 下落のあとの戻り(L + 値)
0% 0.00 150.00 140.00
23.6% 2.36 147.64 142.36
38.2% 3.82 146.18 143.82
50% 5.00 145.00 145.00
61.8% 6.18 143.82 146.18
78.6% 7.86 142.14 147.86
100% 10.00 140.00 150.00

たとえば上昇の 38.2% の押しは、150.00 − 10.00 × 0.382 = 146.18 です。 上昇の 38.2% と下落の 61.8% が同じ 146.18 になるのは、0.382 + 0.618 = 1 だからです。 上昇か下落かを取り違えると、38.2% と 61.8% の線が入れ替わって見えるので注意が必要です。 表は 78.6% で計算していますが、76.4% を使う場合も、比率を 0.764 にして同じ式で計算できます(例:150.00 − 10.00 × 0.764 = 142.36)。

計算例 2:安値 98.40、高値 103.20(値幅 4.80)

端数のある架空の価格でも、計算の手順は同じです。

比率 値幅 × 比率 上昇のあとの押し 下落のあとの戻り
23.6% 1.1328 102.0672 99.5328
38.2% 1.8336 101.3664 100.2336
50% 2.4000 100.8000 100.8000
61.8% 2.9664 100.2336 101.3664
78.6% 3.7728 99.4272 102.1728

上昇の 61.8% の押しは、103.20 − 4.80 × 0.618 = 100.2336 です。 下落の 38.2% の戻りも、98.40 + 4.80 × 0.382 = 100.2336 で同じ価格になります。

一般的な設定値

解説でよく挙げられる水準は、次のとおりです。

水準 出どころ よく言われる位置づけ
23.6% 数列の比(3 つ先の項で割る) 浅い押し・戻り
38.2% 数列の比(2 つ先の項で割る) 中程度
50% 数列の比ではない(半値) 中程度
61.8% 数列の比(隣の項で割る) 深め
78.6% または 76.4% 比率をもう 1 段階計算した値 さらに深い押し・戻り

StockCharts は、23.6% を浅い押し、38.2〜50% を中程度、61.8% を「黄金の」押しとしています。 78.6% を、トレンドが反転する可能性が高まる前の「最後の防衛線」のように扱う解説もあります。 ツールによっては、表示する水準を追加したり外したりできます。

100% を超える水準(161.8% など)を出せるツールもあります。 これは元の値幅の外側にある水準です。

対数目盛のチャートで、対数スケールに合わせた水準を使えるツールもあります。 通常の目盛と対数目盛では、同じ比率でも水準の価格が変わりうる点に注意してください。

チャートでの読み方

上昇のあとの押しを見る引き方

上昇の起点の安値と、上昇の終点の高値を 2 点として指定します。 水準は高値の下に並び、押しが止まりうる場所の候補(サポート候補)として見られます。 サポートは、価格の下げを支える働きをする水準のことです。

下落のあとの戻りを見る引き方

下落の起点の高値と、下落の終点の安値を 2 点として指定します。 水準は安値の上に並び、戻りが止まりうる場所の候補(レジスタンス候補)として見られます。 レジスタンスは、価格の上げを抑える働きをする水準のことです。

架空の上昇(140.00→150.00)の押しでは0%が高値側・100%が安値側、下落の戻りでは0%が安値側・100%が高値側に来ることを、23.6〜78.6%の水準と価格で示した図

0% と 100% がどちらの端に来ているかを確認する

どちら向きにドラッグして引くかは、ツールによって違います。 上昇の押しなら 0% が高値側、下落の戻りなら 0% が安値側に来るのが基本の形です。 引いたあとは、0% と 100% がどちらの端に来ているかを必ず確認してください。

向きを取り違えると、上の計算例のように 38.2% と 61.8% の線が入れ替わります。 価格が表示されないときは、前の節の式で計算して照らし合わせると確実です。

水準の見方として共通している内容

水準は「止まりどころの候補」で、必ず反応するわけではありません。 38.2% や 61.8% を抜けて、そのままトレンドが変わることもあります。 抵抗だった水準が、抜けたあとに支えに変わる(その逆もある)ことがあります。

複数の波に引いた水準が重なる価格帯を重視する、という考え方も紹介されています。 リトレースメントとエクスパンションの水準が重なる場所を重視することもあります。

上昇トレンドの中の押しを見る考え方は、トレンドフォローの記事でも扱っています。 押し目をどう捉えるかは、FXのトレンドフォロー(順張り)とは?をあわせてご覧ください。

エクスパンション(概要)

リトレースメントが「押し・戻りがどこまで来るか」を見るのに対し、エクスパンションは別の目的で使います。 押し・戻りのあと、次の波がどこまで進むかの目安を見るものです。 エクスパンションは日本の解説での呼び名で、ツールや解説によって呼び名と描き方が違います。

エクスパンションでは 3 点を使います。

  1. 最初の波の起点(A)
  2. 最初の波の終点(B)
  3. 押し・戻りの終点(C)

A〜B の値幅に比率を掛けた幅を、C に足します(下落なら引きます)。 比率は 61.8・100・161.8% がよく使われます。

架空の例として、A=140.00、B=150.00、C=146.18(38.2% の押し)で計算します。

比率 計算 水準
61.8% 146.18 + 10.00 × 0.618 152.36
100% 146.18 + 10.00 × 1.000 156.18
161.8% 146.18 + 10.00 × 1.618 162.36

これも「進みうる場所の候補」で、必ず届くわけではない考え方としての目安です。 3 点の取り方で結果が大きく変わるので、高値・安値のはっきりした相場が向いているとする解説があります。

架空のA(140.00)→B(150.00)→押しC(146.18)のあと、CにA〜Bの値幅×61.8・100・161.8%を足した水準152.36・156.18・162.36を示すエクスパンションの図

だまし・弱点と、相性のよい組み合わせ

どの高値・安値を選ぶかで結果が変わる

最大の弱点は、どのスイング(波の山と谷)を選ぶかに、客観的な基準がないことです。 多くの解説は「直近の高値と安値」「波の起点と終点」と書くだけで、選び方を決めていません。 人によって選ぶ点が違えば、出てくる水準もすべて違います。

高値・安値をヒゲの先で取るか、ローソク足の実体で取るかにも、決まった基準はありません。 同じ波でも、どちらで取るかによって水準の価格が変わります。 小さく重要でないスイングを選ぶと、水準の信頼性が下がるとする解説もあります。

時間足を変えると、目に入る波が変わり、水準も変わります。 どの選び方にするかを決めたら、同じやり方で続けることが大切だとされています。 高値・安値の選び方に主観が入る点は、ダブルトップ・ダブルボトムのようなパターン分析とも共通の論点です。

同じ架空の上昇でも、直近の小さな波で引くと38.2%・61.8%は147.71・146.29、前の大きな波で引くと142.36・137.64になり、選ぶ安値で水準がずれることを示す図

線が多く、どこで止まっても当たって見えやすい

StockCharts 自身も、38.2〜61.8% のゾーンは大きく見えるかもしれないと書いています。 23.6〜78.6% の間に 5 本も線があれば、押しがどこで止まってもどれかの線の近くになりやすくなります。 反応した例だけを覚え、抜けた例を忘れやすいという記憶の偏り(確証バイアス)も指摘されています。

StockCharts の例でも、最初の反転の試みが失敗し、2 回目で反転したケースが示されています。 浅い押しは捉えにくいとも書かれています。

相場つきによっては向かない

レンジ相場や、高値・安値があいまいな相場では効果が出にくい、とする解説があります。 レンジ相場は、一定の価格帯を上下する相場のことです。 トレンドのない相場、値動きの荒い相場、ニュースで動く相場では信頼性が下がる、とする解説もあります。

比率で反転するという考え方の根拠は?

23.6・38.2・61.8% が数列から出てくるのは、数学的な事実です。 一方で「その比率で相場が反転しやすい」かどうかについては、見方が分かれています。

多くの人が見ているため意識されやすい、とする見方 多くの参加者が同じ水準を見て注文を置くので、実際にその付近で需給が生まれる、という説明です。 それがさらに水準への注目を強める、という自己実現的な仕組みとして説明されます。 群集心理が影響する相場ではフィボナッチ比率が意味を持つと考えられている、とする解説もあります。

エリオット波動の解説では、波の戻りがフィボナッチ比率に近くなる「傾向」が語られています。 ただし、これは傾向として語られるもので、決まった規則ではありません。

フィボナッチ水準と近くの他の水準を区別できなかった、とする検証 個人サイト(Forexop)による検証では、FX の 9 通貨ペアの 1 分足(2003〜2016 年)を調べています。 押し・戻りの深さを集計したところ、フィボナッチ水準のところに目立った山や谷は見られませんでした。 フィボナッチ水準と、その近くの他の水準を区別できなかったと結論づけています。

この検証では、波を機械的に決めるために独自のルールを置く必要がありました。 裏を返せば、ルールを決めないと、どの波を選ぶかが一つに定まらないということでもあります。

別の研究:キリのよい数字に注文が集まる これはフィボナッチではなく、キリのよい数字(キリ番)についての別の研究です。 ニューヨーク連銀のスタッフレポート(Osler, 2001)は、FX の注文がキリ番に集中していることを示しました。 「水準に注文が集まれば、その付近で反応が起きうる」という仕組みの一般論として参考になる、という考え方もあります。

まとめると、比率そのものに相場を反転させる力がある、と言える裏付けは確認できた範囲では弱いものです。 反応が見えるとすれば、多くの人が見ていることや、線の多さ・記憶の偏りで説明できる、という両方の見方があります。 「61.8% で反転する」と決めつけず、候補の一つとして扱うのが無難です。

相性のよい組み合わせ

多くの解説が、フィボナッチ単独で判断せず、ほかの分析と組み合わせるよう書いています。 StockCharts は、確認手段としてローソク足、チャートパターン、オシレーター、移動平均を挙げています。 確認材料が多いほど判断が頑健になる、という考え方です。

移動平均線 併用する相手として、移動平均線を挙げる解説が複数あります。 移動平均線の読み方は、移動平均線の使い方で解説しています。

チャートパターン・ローソク足 水準の近くでどんな形が出ているかを、確認材料の一つにする例があります。 パターンの見方は、ダブルトップ・ダブルボトムとは?が参考になります。

サポート・レジスタンス、ほかのフィボナッチ水準 過去に意識された価格帯や、別の波に引いた水準と重なるかを見る考え方があります。

関連ツール・関連記事

フィボナッチの水準を計算するツールは、今のところありません。 上の「水準の価格を出す式」と計算例を使って、手元で確かめてみてください。


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